プロメチウム以外の希土類元素は、溶解度(水などへの溶けやすさ)の差を利用して分離され、発見されています。希土類元素を溶かした溶液を加熱濃縮させて沈殿を生じさせると、溶けやすい元素は溶液に濃縮し、溶けにくい元素は沈殿に濃縮します。しかし、希土類元素の場合、溶解度の違いが小さいため、分離作業を何度も繰り返す(20,000回も繰り返した化学者もいたそうです)必要があり、困難な作業でした。ここでは、素早い希土類元素の分離を可能にしたイオン交換法を紹介しましょう。
まず、イオンを説明します。原子が持っている電子の数は、元来、陽子の数と同じです。しかし、電子の数が本来の数よりも少ない状態と多い状態が存在します。少なくなったものを陽イオン(あるいはプラスイオン)、多くなったものを陰イオン(あるいはマイナスイオン)といいます。陽イオンと陰イオンは互いに引き寄せ合います。希土類元素を溶液に溶かすと、電子が不足した状態、つまり、陽イオンになります。
次に、分離作業で使用する薬品など(下図参照)を紹介します。溶離液には陽イオンとなった希土類元素と吸着する薬品(例えば、EDTA)が溶けています。この薬品に、希土類元素の陽イオンが吸着します。そして、原子番号が大きい希土類元素の方が、小さいものよりも吸着しやすい性質があります。また、希土類元素の陽イオンと安定に吸着し続けるのではなく、吸着と分離を繰り返しています。イオン交換樹脂とは、合成樹脂の表面に、陽イオンや陰イオンを付着させたものです。希土類元素の分離では陰イオンを付着させたものを使用します。
次に、作業の流れを紹介します。はじめに、希土類元素を溶かした溶液をイオン交換樹脂に浸して、希土類元素の陽イオンをイオン交換樹脂の上端に吸着させておきます。次に、溶離液を注いでいきます。溶離液が下方へ移動するに従って、EDTAと吸着した希土類元素の陽イオンも下方へ移動します。しかし、EDTAと分離した希土類元素の陽イオンは、再びイオン交換樹脂へ吸着し、下方への移動は止まります。この吸着と分離を繰り返しながら、希土類元素の陽イオンも、下方へと移動していきます。移動の早さは希土類元素によって異なっています。EDTAとの吸着の程度に差があるからです。原子番号が大きい希土類元素の方が小さいものよりも、よく吸着します。よって、原子番号が大きい希土類元素の方が、小さいものよりも早く下方へ移動することになります。この原理を利用して、希土類元素を分離するのが、イオン交換法です。
イオン交換法は、ウランに不純物として含まれている希土類元素を除去する技術として、米国の原爆開発計画(マンハッタン計画)で開発されました。高純度の希土類元素が容易に得られることから、1950年代頃から利用されてきました。しかし、樹脂の交換などでコストが大きいため、今日では、別の方法(溶媒抽出法。後日紹介))が利用されています。 |