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ユウロピウム

元素記号:Eu 英語名:Europium

原子番号

原子量

融点(℃)

沸点(℃)

宇宙存在度

63

151.965

822

1597

0.0973

 ユウロピウムは柔らかい銀白色の金属です。地殻には 2.1 ppm (0.0021%)ほど、含まれています。1896年、フランスのドマルセは、純粋なサマリウムと考えられていたものの中に、未知の元素が含まれていることを発見し、その元素を分離することに成功しました。ユウロピウムという元素名はヨーロッパに因んでいます。
 ユウロピウムは主にバストネス石から生成されています。ユウロピウムの重要な応用は蛍光体としての利用です。ブラウン管タイプのカラーテレビでは、赤色を発生させるのにユウロピウムを使用しています(青色はセリウム(Ce)を、緑色はテルビウム(Tb)を利用)。太陽光に近い照明が得られる三波長型蛍光ランプでは、赤い光と青い光を発生させるためにユウロピウムが使われています(緑色の光はセリウムとテルビウムを使用)。ホタル蛍光灯(電源が切れても、暗闇で1時間ぐらい薄明かりを保つ)にも、ユウロピウムが活用されています。

(Ce,La)(CO3)F
バストネス石
バストネス石
Mountain Pass, San Bernardino Co., California, U.S.A.

コラム「マグマオーシャンの痕跡:月の石のユウロピウム異常」
 希土類元素は化学的な性質が似ており、同じ様に挙動します。希土類元素の原子は、3個の電子を失った状態(3価のイオンといいます)で、化学的に振る舞います。しかし、ユウロピウムは、2個の電子を失った状態(2価のイオン)でも、化学的に振る舞うことが可能です。よって、ユウロピウムのみが特異な挙動を示すこと(ユウロピウム異常)が発生します。ユウロピウム異常が発生する原因で、最も知られているのが斜長石の生成です。ユウロピウムのみ、斜長石に濃縮する現象が観測されています。ここでは、月の石のユウロピウム異常を紹介しましょう。

月の高地の石(斜長岩) 月の海の石(玄武岩)
月の高地の石 月の海の石

Dar al Gani 400(月隕石)

North West Africa 032(月隕石)

 希土類元素の濃度を議論する時には、下のようなグラフを利用します。横軸は、希土類元素を原子番号中に並べています。縦軸は希土類元素の濃度を、基準となる物質の濃度と比較した値が示されています。基準となる物質は、最も原始的な隕石であるCIコンドライト(CIはシーアイと読みます。元素の宇宙存在比を求めるのに使用されている隕石です。)です。分析した石の全ての希土類元素の濃度がCIコンドライトと同じならば、黒い実線のように、希土類元素の存在比が表されます。
 では、月の石の分析結果を見ていきましょう。青い線は、月の高地の石(斜長岩)を分析した結果です。他の希土類元素と比べて、ユウロピウム(Eu)が異常に多くなっています。斜長岩を構成している鉱物の85%以上が斜長石です。よって、月の高地の石の場合も、斜長石の生成がユウロピウム異常の発生原因となっていると判断することができます。
 赤い領域は、月の海の石(玄武岩)を分析した結果です。今度は、逆に、他の希土類元素と比べて、ユウロピウムが少なくなっています。こうなった原因も、斜長石の生成にあると考えられています。つまり、斜長石が取り除かれた領域が月の地下に存在し、月の海の石は、その領域の岩石が溶けたマグマから誕生したと考えられています。
 月の石のユウロピウム異常などの化学的な特徴や、岩石学的な特徴と形成年代、そして、現在の月の内部構造などを説明するために、誕生直後の月の表面は溶けていた(マグマの海に覆われていた)というマグマオーシャン仮説が提案されています。その説によると、マグマの海の中で形成される斜長石は、比重が小さいため、マグマの上に浮かび、月の表面は斜長石で覆われるようになります。こうして形成されたのが、月の高地であり、月の高地の石ではユウロピウムが多くなります。そして、斜長石の存在領域の下には、斜長石の成分が取り除かれたマグマが固まった領域が形成され、そこではユウロピウムが少なくなります。その後、クレーターが誕生した際の衝撃で月の内部にマグマが発生し、月面に吹き出してきた溶岩が固まって、月の海が形成されました。このように、マグマオーシャン仮説によって、月の石のユウロピウム異常を説明することができます。月の石のユウロピウム異常は、月のマグマオーシャンの痕跡とも言えます。

注:左から5番目にはプロメチウム(Pm)が入るはずですが、安定なプロメチウム原子が存在しないため、省略されています。

隣接元素
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サマリウム ユウロピウム ガドリニウム
アメリシウム

  

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