ポロニウムは銀灰色の放射性金属です。ウランやトリウムが崩壊する過程で生成されるため、地殻中には極微量の天然のポロニウムが存在しています。因みに、1Kgのウラン鉱石には最大で0.00007mgほど含まれています。
ポロニウムは1898年にキューリー夫妻によって発見されました。マリー・キューリー(有名なキューリー夫人です)はウランやトリウムを含む鉱物の放射能を測定し、ウランやトリウムの含有量から予測される強度の4倍の放射能があることを発見しました。彼女は強い放射能を持つ未知の元素が含まれていると考え、夫のピエール・キューリーの協力を得て、新元素の探求を開始しました。ピッチブレンド{塊状の閃ウラン鉱(UO2)}を化学処理して成分を分けて行き、バリウムが濃縮している成分とビスマスが濃縮している成分から強い放射能を示すことに気づきました。そして、ビスマスが濃縮している成分からビスマスを取り除き、残りの成分から新しい元素を発見しました。元素名はキューリー夫人の母国ポーランドに因んで、ポロニウムと名付けています。発見当時、ポーランドはロシアに支配されていました。元素名には祖国の独立を願う強い気持ちがこめられています。なお、バリウムが濃縮している成分からも新元素を発見し、ラジウムと命名しました。両元素の発見により、キューリー夫人は1911年にノーベル化学賞を受賞しています(夫のピエールは1906年に、馬車に、はねられて、亡くなっています)。
ポロニウムの内、存在量が多く、産業などで利用されているのはポロニウム210(陽子84個、中性子126個)です。ウラン鉱石中の含有量は極微量のため、原子炉を使って合成されています。ビスマス209に中性子を衝突させてると、γ線の放出と共にビスマス210が生成されます。ビスマス210は5日間で半減するペースでβ崩壊し、ポロニウム210に変わります。現在の年間生産量は100グラムほどで、多くがロシアで造られています。
ポロニウム210から放出される放射線(α線)は強度がとても強く(ウランの約100億倍)、α線の発生源として研究に利用されています。α線を他の物質に照射して加熱し、その熱で電気を起こす装置(原子力電池)に使われることがあり、ポロニウム210を利用した原子力電池は主にロシア製の人工衛星に搭載されています。α線はプラスの電荷を帯びているので、紙や針金などを巻き取る機械に貯まった静電気を除去する装置(イオナイザー)にも使われています。また、ベリリウムにα線を衝突させると中性子が生じます。この反応を利用して、中性子源としてもポロニウム210は使用されています。その代表例は核兵器の起爆装置です。ウランやプルトニウムの連鎖反応を引き起こす最初の中性子は、ポロニウム210から放出されるα線とベリリウムが核反応を起こして、生成されます。 |