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水素

元素記号:H 英語名:Hydrogen

原子番号

原子量

融点(℃)

沸点(℃)

宇宙存在度

1

1.00794

-259.14

-252.87

2.79x1010

 水素は無色の気体で、宇宙では最も多く存在する元素です。水素は海水を含めると3番目に多く地表部に存在する元素(1番目は酸素、2番目はケイ素)ですが、地殻中には0.15%程度しか含まれていません。鉱物中では主に水酸基(OH)か、水(H2O)の形態で存在しています。代表的な鉱物として、黒雲母と石膏(せっこう)を紹介します。黒雲母は主要造岩鉱物のひとつで、地殻を構成する鉱物の約4%が黒雲母です。石膏を乾燥させて水を取り除くと、石膏の結晶は粉々になります。この粉に水を混ぜると、硬く固まります。この固まる仕組みを利用したのがギブスです。石膏にとって、水は結晶を維持するのに必要なものとなっており、この様な水は結晶水と呼ばれています。

K(Fe,Mg)3(AlSi3O10)(OH,F)2

CaSO4・2H2O

黒雲母

石膏(せっこう)

 水素の存在は17世紀には知られていました。イギリスのボイルは、鉄と硫酸を反応させると燃える気体(水素ガス)が発生することを、1671年に記載しています。水素を分離し、元素の1つであると最初に認識したのはイギリスのキャベンディッシュです(1766年)。当時、燃える物にはフロギストンという燃える素が含まれている(フロギストン説)と考えられていました。そのため、燃える気体の正体はフロギストンであり、鉄の中に含まれていると誤解していました。しかし、1783年、フランスのラボアジェが高温の鉄パイプに水蒸気を通すと燃える気体が発生することを発見し、1789年に水の電気分解でも燃える気体が得られることが確認されたことにより、燃える気体(水素)は水の成分の1つであることが判明しました。元素名は、ギリシャ語のhydro(水の意)とgennao(生ずるの意)に因んでラボアジェが命名したと、言われています。
 工業的に水素は、鉄と水蒸気の高温反応や水の電気分解の他、石油や天然ガスを水と高温で反応させることによって、得られています。近年、光合成のメカニズムを模倣して、太陽光を使って水を分解して水素ガスを得る方法(人工光合成)が開発され、注目されています。
 水素ガスの最大の用途はアンモニア(NH3)の合成です。アンモニアは肥料の原料として利用されています。植物性油に水素ガスを溶かし込み、化学反応によって固化したのがマーガリンです。水素を燃やすと2000℃もの高温が得られので、金属の溶接や切断に水素が利用されています。宇宙ロケットでメインロケットとして利用されている液体ロケットには、液体水素と液体酸素が使用されています。燃料電池は、水素と酸素を反応させて水と電気が得ることができる電池です。

コラム「3種類の水素原子」
 水素は最も単純な構造を持つ原子です。ほとんどの水素原子は1つの陽子と1つの電子で構成されています。原子の中心部に陽子が1つあり、その周りを電子が1つ飛び回っています(下図中の左のイラストを参照)。一部の水素原子には、中心部に陽子と中性子が存在しています。下図のように、1つの中性を持つ水素原子と2つの中性を持つ水素原子が存在します。この様に、同じ元素でも中性子の数が異なるものを同位体と呼んでいます。水素には3つの同位体が存在しています。
 水素の場合、同位体の物理的な性質が大きく異なるため、個々の同位体に名前と記号が与えられています(下表参照)。含まれている水素が軽水素のみの水が軽水です。重水素のみで構成された水は重水と呼ばれ、化学式はD2Oと記載します。水を電気分解する際、重水は軽水よりも分解が困難です。この性質を利用して重水の精製が行われますが、1リットルの重水を得るには10万リットル以上の水を電気分解しなければなりません。また、重水素を含む水は、軽水素だけの水に比べて、蒸発が困難です。そのため、雨や雪として降ってくる水に含まれている重水素の割合は、海水に比べて、最大で40%程度、少なくなっています。この特徴を利用して、川の水と海水が混ざる様子を調べることができます。
 三重水素の存在度は極めて少なく、100京(1京=10000兆)個の水素原子に1個の割合でしか、含まれていません。天然の水素から抽出するのではなく、リチウムと中性子を反応させて、人工的に生産しています。

3種類の水素原子(水素の同位体)

名前

プロチウム
(軽水素)

デュウテリウム
(重水素)

トリチウム
(三重水素)

記号

H

D

T

モデル図

p:陽子  n:中性子  e:電子

存在度

99.985%

0.015%

10-16

注: 10-16% = 0.0000000000000001%

コラム「わき水の年代」
 わき水とは、地表に降った雨が地下へ浸透して地下水になり、再び地表に出てきたものです。わき水となった雨が降ったのが、何年前であるかを調べる方法を紹介しましょう。
 100年以内に降った雨の場合、三重水素を利用します。三重水素は時間の経過と共に、ヘリウム3(2個の陽子と1個の中性子を持つ)へと変化します。変化するペースは12.4年で半分の三重水素が変化します。半分に減る時間の長さは半減期と言います。半減期の2倍の24.8年経過すると、半分の半分、つまり、4分の1に、三重水素は減ります。半減期の2倍の時間が経過しても、全部無くなるわけではないので、注意してください。半減期の3倍の時間が経過すると、半分の半分の半分、つまり、8分の1へ減ることになります。この様に、三重水素は時間と共にヘリウム3へ変わっていきます。
 雨に含まれている三重水素は、大気中の窒素や酸素に、宇宙線(宇宙から飛んでくる高速の粒子。90%は陽子。)が衝突し、窒素や酸素の原子を破壊する反応(破砕反応という)によって、生成しています。生成した三重水素は酸素と反応して、水となり、雨となって、地表に降ってきます。宇宙線の強度は過去1万年程度間は、ほぼ一定であることが確かめられており、三重水素の存在度も一定と考えることが出来ます。
 宇宙線が破砕反応を起こすことができるのは、大気中の上層部に限られています。地中で生成される三重水素の量は、無視できます。よって、地下水となった水に含まれている三重水素の量は、時間と共に、減っていくことになります。もし、わき水の三重水素の存在度が半分に減っていれば、12.4年前に降った雨の水であることが分かります。
 もっと、古い時代に降った雨によるわき水の場合には、ケイ素32(半減期:105年)や塩素36(半減期:30万年)が利用されます。ケイ素32と塩素36は、大気中のアルゴンと宇宙線による破砕反応で、生成しました。

隣接元素
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ーーー 水素 ヘリウム
リチウム

  

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