 クロムは地殻に約0.02％ほど存在します。きわめて硬い結晶性の灰色の金属です。1797年に、フランスのヴォークランは紅鉛鉱（PbCrO4）から鉛を除去して、未知の酸化物（Cr2O3）を生成し、新しい元素を発見しました。この元素の化合物は多彩な色調のものが多い（コラム参照）ことから、ギリシャ語のchroma（色の意）からクロムと名付けられました。以前は紅鉛鉱から精製されていましたが、現在ではクロム鉄鉱（FeCr2O4）が鉱石として利用されています。
クロムは合金材料として重要な金属です。鋼にクロムを少量添加すると粘りと強度が増し、摩擦に強い鋼（高速度工具鋼や軸受鋼など）になります。高速度工具鋼はドリルなどに、軸受鋼はベアリングに利用されています。また、クロムを大量に添加すると、鋼は錆びにくくなり、熱にも強くなります。ステンレス鋼はクロム酸化物の膜を形成することによって、赤サビを防いでいます。18-8ステンレスという表記をよく見かけますが、このステンレス鋼には18％のクロムと8％のニッケルが混ざっています。クロムと同時にニッケルも添加してやると、クロムだけよりも錆びにくく、熱に耐える鋼になります。電熱線として使用されるニクロム線もニッケルとクロムの合金です。その他のクロムの利用として、メッキと顔料が重要です。革を柔らかくするのにも、使用されています。
クロム原子には本来24個の電子が含まれていますが、6個の電子を失ったものが存在することが可能です。これが悪名高い6価クロムです。6価クロムには、失った電子を他の物質から奪い取ろうとする強い力があります。もし、6価クロムが体内に侵入すると、細胞や体内ホルモンに損傷を与え、ガンの原因になります。1970年代、クロムを使用するメッキ工場などで、従業員が肺ガンになり、大きな社会問題になりました。この様に、6価クロムは猛毒です。しかし、その他のクロムは無毒です。それどころか、クロムは体に必要な微量金属の１つで、インシュリンの働きを活性化します。もし、欠乏すれば、動脈硬化や高血圧になります。 |