イリジウムの研究から恐竜は巨大な隕石の衝突によって絶滅したと考えられています。有名な話なので、皆さん、御存知でしょう。1980年にカリフォルニア大学の研究グループによって発表された隕石衝突説は、ダーウィンの進化論に並ぶセンセーショナルな説であると言われています。グループの中心となったのは、一組の親子の研究者(ルイス・アルバレスと息子ウォルター・アルバレス)です。彼等は、なぜ、イリジウムを研究したのでしょうか。そして、どうやって、イリジウムと巨大隕石の衝突を結びつけたのでしょうか。研究の舞台裏を紹介しましょう。
親子の研究者と聞いて、同じ分野の専門家のように思われた方も多いと思いますが、アルバレス親子の場合、専門分野が異なっていました。父親のルイス・アルバレスは著名な物理学者です。1968年に、素粒子の研究でノーベル物理学賞を受賞しています。息子のウォルター・アルバレスは地質学の研究者です。専門分野が異なったことが研究に大きく寄与したように思えます。また、アルバレス親子は程良い距離感(?)のある親子でした。ウォルターが高校生の時、ルイスは離婚し、親子は別居。大学院の終了後、ウォルターはオランダ、リビア、イタリアと研究の拠点を移していきました。そのため、親子はしばらく合うことがなかったそうです。私の勝手な推測ですが、この距離感がウォルターにとって幸いだったのかもしれません。父親がノーベル物理学賞の受賞者です。もし、同居していたならば、物理の研究者になっていたかもしれません。あるいは、科学者以外の職業に就いていたかもしれません。更に、この距離感のおかげで、共同研究者という関係を保つことができたのかもしれません。イタリアでの研究を終えたウォルターはニューヨークに戻ってきて結婚しました。そこへ父のルイスが訪問し、当時、最もホットな地球科学の研究分野であったプレート・テクトニクスに大いに興味を示したそうです。この頃、息子のウォルターは、白亜紀(恐竜が生息した最後の時代で、ドイツ語で
Keide と言う)の地層と第三紀(恐竜が滅亡した後の最初の時代で、ドイツ語で
Tertiar と言う)の地層の間に存在するK-T境界層の研究を開始し、恐竜絶滅の謎を解明することを目指していました。父のルイスも息子の影響で大いに興味を示し、親子は議論を繰り返していました。そして、1977年、息子のウォルターもカリフォルニア大学の教授(専攻は地質学)に就任し、本格的に、親子でのK-T境界層の研究がスタートしました。 |