化学者にとって、新元素の発見は生涯で最大の功績となることが多いのですが、テナントの場合は異なっています。彼の最大の功績は、ダイヤモンドがグラファイト(黒鉛)と同じ炭素でできていることを証明したことだと言われています。ダイヤモンドと白金鉱石の研究には、一見、関係がないように思えるのですが、ダイヤモンドの研究がオスミウムとイリジウムの発見に重要な役割を果たしました。
白金鉱石を王水に溶かすと、黒色の物質が溶け残ります。当時の化学者の多くは、溶け残りの正体はグラファイトであり、不純物として白金鉱石に含まれていたのだと考えていました。テナントも同様の実験を行い、黒い物質を研究しました。その時、ダイヤモンドの研究経験が役に立ったのは言うまでもありません。すぐに、グラファイトではなく、別の金属であることに気が付きました。そして、オスミウムとイリジウムを発見することができました。
自然白金に含まれているオスミウムとイリジウムは、通常、合計でも1%以下です。他の白金族元素よりも、かなり、少なくなっています。もし、テナントが白金鉱石の研究を行わなかったならば、両元素はグラファイトと勘違いされてしまい、発見が遅れたのではないでしょうか。 |