分析結果で最も注目すべき点は、地球と小惑星では10倍程度も差があることです。その原因は、まだ、解明されておらず、いくつかの仮説が提唱されています。それらを紹介しておきます。 |
仮説1:地球のマントルとコアの分離が遅いとする説 |
マントルとコアの分離が遅いと、ハフニウム182の多くがタングステン182へ変化してしまい、ハフニウム182の存在量は少なくなります。そのため、マントルとコアの分離が起こり、マントル部分にハフニウムが増えても、マントル部分にあるタングステンへのハフニウムの影響は小さくなります。 |
仮説2:ジャイアント・インパクトによりマントルとコアの混合が起こったとする説 |
現在、月の起源として、最も支持されているのがジャイアント・インパクト説です。誕生直後の地球に、火星サイズの別の惑星が衝突し、宇宙空間へ飛ばされた地球の岩石部分が集積して、月が誕生したという説です。この説が正しいとすると、衝突の影響は地球内部へも及んだはずです。その時、コアとマントルが混ざり合いが起こったとすれば、マントル部分にあるタングステンへのハフニウムの影響は小さくなります。 |
仮説3:タングステンの振る舞いが圧力によって変化したとする説 |
タングステンは岩石部分(マントル)よりも金属部分(コア)へ集まる元素ですが、その集まりやすさの程度が圧力によって弱くなるのではと考える説です。もし、この説が正しいとすると、強い圧力が生じている大きな惑星(地球)の内部では、マントル部分にタングステンが多く残り、結果として、ハフニウムの影響は小さくなります。上の表を見ると、天体が大きいほど(内部圧力が大きいほど)、ハフニウムの影響の大きさが小さくなっており、この仮説と調和しています。 |
仮説4:地球の形成に長時間(1億年程度)を要したとする説 |
地球は直径が10km程度の小さな惑星(微惑星という。組成は炭素質コンドライトに似ていると考えられている)が衝突合体を繰り返しながら、成長したと考えられています。衝突合体の大部分のプロセスが、1000万年程度で終わったとすると、地球内部にはハフニウム182が十分に残っており、マントルとコアの分離によって、マントル部分にあるタングステンへのハフニウムの影響は大きく残っているはずです。しかし、衝突合体の大部分のプロセスが、1億年程度で終わったとすると、地球内部にはハフニウム182は残っておらず、マントル部分にあるタングステンへのハフニウムの影響は小さくなります。この説は、エコンドライト程度のハフニウムの影響を、炭素質コンドライトで薄めるようなモデルです。 |
まとめ |
これらのモデルが複合した仮説も提唱されています。また、別の仮説が提唱されるかもしれません。結論を出すには更なる研究が必要です。 |